パブリックエネミーズ
実在したエレガントな銀行強盗、ジョン・デリンジャーのノンフィクション本を映画化した作品。
マイケル・マン監督と言えば、「ヒート」で描いた“男たちの世界”の重厚さに「カッコイイ!!」となったけど、この作品はグッとこなかった。
それはきっと、ジョン・デリンジャーの生き様を明確にできなかったからだと思う。
悪党の映画なんだから、悪の美学をきちんと語ってほしかった。
この映画に出てくるジョン・デリンジャーは「悪に身を染めながらも、1人の女を激しく愛した男」としたいんだろうけど、フィクションならともかく、この映画が「ノンフィクション」である以上、史実を丸きり置いてけぼりにする美化には白ける。
ジョン・デリンジャーが犯罪を犯し、人を殺す行為に対して考えている、自分なりの「腹決め」、法に縛られない生き方を貫き通す代わりに失わなければいけないものに対する「納得」が語られてない。
美しい悪党を描く映画にするんなら、そこの達観した美学を見せてほしかったなあ、と。
この映画のジョン・デリンジャーは、自分で起こしたことに一喜一憂しまくるケチでハンサムな小悪党にしか見えない。覚悟がない。
最愛の女が収監されてる時に売春婦と映画デートするんなら、その前に何かしらのピリオドを打ってるんじゃないかな。
そこの味付け、独自の解釈をするのが映画だと思うんだけど……。
キレイごとで装飾されても、何も感動・共感できない。
最後に全員のその後がありがちにエンドロール前に流れるけど、
あれだけ強い精神力を持った男として描かれているパーヴィス捜査官の結末について、デリンジャーとの対決の中で彼が心に抱える闇を描けたんじゃないかな。
一瞬、それっぽいシーンはあったけど、あれじゃ何も語られてないのと一緒。
ちなみに劇中に何度かある射殺シーンが意外と暴力的でグッド。
あと、パーヴィス捜査官役のクリスチャン・ベールが1人で次元の違うカッコ良さを見せつけてるのと、“ベビーフェイス”・ネルソン役のスティーブン・グレアムが狂ってて良かった。